前回はISO9001の運用の章について考察しましたが、今回はISO14001の運用の章を考察したいと思います。まず、要求事項の表題を比較します。

現行版の4.4.6運用管理と4.4.7緊急事態への準備及び対応が該当し、大きな変更はありません。ISO9001と比較すると、運用の章の要求事項が少ないように感じられるかもしれません。ISO9001は、従来よりマネジメントシステム全体のPDCAサイクルのなかに、さらに個別製品のPDCAサイクルの要求事項が内包する形式を取っており、2015年改定では、運用の章だけで個別製品のPDCAサイクルを完結できるようになっているため、8章の要求事項が必然的に多くなります。これに対し、環境マネジメントシステムは、個別の製品や環境側面ごとにPDCAサイクルを完結させるといった考え方はありません。従って、環境マネジメントシステム全体の計画に該当する6.計画の章で環境側面を抽出し、8.運用の章で管理の方法を定め、これを実施することになります。また、ISO9001の改訂版では、8.運用の章の中に個別製品の監視と改善が含まれるようになりましたが、ISO14001の改訂版は、このような形式をとらず、監視は9.パフォーマンス評価、改善は10.改善で対応することになります。
改訂版のISO14001の運用の章は、環境側面の管理方法を定め、その通りに実施するところまでが対象となり、この点では、現行の要求事項と異なることはありません。しかし、表題を個別に見ていくと以下のような変化が見られます。
(1)バリューチェーンの観点
バリューチェーンを直訳すると、付加価値連鎖となります。1つの製品が顧客のもとに届くまでには、さまざまな業務活動が関係しますが、モノの流れに着目すると、各業務活動がそれぞれ付加価値を加えて全体の付加価値を構成します。環境マネジメントに当てはめると、それぞれの業務活動の段階において、各々が環境側面の管理に努めることで、結果として製品や製造・サービス活動の環境パフォーマンスが高まることになります。民間企業では、既に浸透してきたバリューチェーンの概念を改訂版は、「8.1 運用の計画及び管理」と別に「8.2 バリューチェーンの計画及び管理」の要求項目を設けてバリューチェーンの概念を意識していることを明らかにしています。
(2)購買、設計・開発に関する要求事項の明確化
バリューチェーンの概念を明らかにしたことで、組織は、自らが直接管理する環境側面だけでなく、購買品や外部委託したプロセスのような間接的に影響を与えるものについても確実に考慮に入れることになります。現行版でも間接的に影響を与える環境側面を考慮することを求めていますが、バリューチェーンを意識することで、さらに製品のライフサイクルにおける組織の役割を理解し、影響を与える上流、下流のプロセスの管理を実施することで、トータルの環境パフォーマンスを高めることを志向しています。
(次回更新予定 2014年7月14日頃)